ウェブやマーケティングの専門家として活躍をする一方、自身の生まれ故郷である熊本県菊池市で地域活性化に向けた積極的な取り組みを始めている福田政隆さん。

前回は、地元熊本県菊池市での地域活性化に向けた取り組みや、ITとマーケティングを掛け合わせていかに地方の可能性を広げていくかなど、ご自身の経験や想いなどを交えながら話をしてもらった。

最終回となった今回は、福田さんが目指す「自由でありながらも、個人の可能性を最大限に発揮できる働き方」などについて、福田さんの考えを詳しく聞く。

働く環境の重要性

私は、航空自衛隊時代、アメリカ軍と一緒に仕事をする機会が何度かありました。そしてその時、私は「組織の在り方、環境がいかに働く人のモチベーションや成長につながるか」ということを身を持って感じたのです。

私がその時属していた組織というのは、原則終身雇用だったため、安定はしていました。でも、何十年も先までのキャリアが、ある程度予測できてしまう環境の中で、職場の仲間たちはどこか、日々のモチベーションをどのように保つべきかを常に模索しているような印象でした。

一方で、米軍と仕事をした時、私は、自分が身をおく環境とのあまりの違いに、衝撃を受けました。自分が属していた組織とは対極の印象だったからです。

 能力を引き出す仕組みづくり

米軍で働く人々の圧倒的な存在感と緊張感、そして組織に貢献するための積極的姿勢には、本当に驚かされました。そして、その違いはどこからきているかと考えてみると、やはり組織の仕組み自体が大きく異なるということに気付いたのです。

米軍では、数年ごとに試験があり、それらをパスしないとそこに残り続けることはできません。そんな環境の中で働く人々は、常に自分自身を振り返り、成長していることが求められます。そんな中、一人一人が自分にとって何が大切なのかを選択していくことを日々迫られるでしょう。そして結果的に、モチベーションが高く、一人一人が輝く組織が出来上がっていくのだと思います。

ティール組織とは

私は、自分自身が経営者として仕事をする立場ということもあって、常に「理想的な組織づくり」について考えてきました。そして「ティール組織」という考え方に出会い、自分の目指す組織のあり方、働き方についての方向性が見えた気がしています。

ティール組織とは、フレデリック・ラルー氏が2014年にまとめた著書「Reinventing Organizations」で紹介されたことがはじまりです。

「生命体」である「社員一人ひとり」が個人の意思決定で動くようなイメージをしていただくとわかりやすいかもしれません。

当時マッキンゼーで組織変革のプロジェクトに携わっていたラルー氏が、世界中の組織調査を行って見い出した、新しい組織運営の形とも言えます。

一人一人が輝ける環境

これまでお伝えしてきたように、私は「一人一人の可能性を引き出す」ということに、大変興味があります。多くの人を同じような価値観やスタイルの中に押し込めるのではなく、それぞれの価値観や強みを活かし可能性を引き出すことで、多くの人が輝くことができると信じているからです。

そして、従来の日本の組織づくりの枠を超え、次世代の「みんなが輝く働き方」とは何かという視点で考えた時に、たどりついた答えが、自由でありながら個々人が責任と使命を感じて動ける「ティール組織」という在り方なのです。

次世代型の組織へ

日本の企業組織は、未だにピラミッド型が多く、縦の関係によって管理・運営されているケースが多いかと思います。しかし、コロナの影響もあり、ワークスタイルが急激に多様化してきた今、それらも今後少しずつ次世代型へと変化していくのではないかと感じます。

例えば、部門ごとの業務や利益を明確にして、部門長にそれぞれ社長のような権限を与え、売上のインセンティブを発生させることで、それぞれのモチベーションを引き出す組織づくりができるかもしれません。

また、個人がやりがいを感じ強みを発揮できるような仕事を、それぞれが選べるような仕組みづくりをすることで、働く人の可能性を最大限に引き出すためのアプローチになるかもしれません。

企業という組織の中でも、受身で働く人を減らし、個人の力を積極的に引き出すための取り組みがこれから求められる時代になってくると考えています。

対等な立場で意見を言い合える組織

実際、私は通常7名とともに仕事をしていますが、全員が「社員」という雇用形態ではありません。それぞれが独立して起業しています。

外からみると、実質的には社員のように見えるかもしれません。しかし私は、ピラミッド型の縦の組織ではなく、横の対等な立場での繋がりによって自由な働き方を実現し、個人が成長しながらやりがいを感じられるような仕組みづくりをしていきたいと思っているのです。

だからこそ、社長と社員という縦の関係性ではなく、起業家同士という横のつながりをあえてつくりながら、ともに仕事をする仲間として働いています。

そうすることで、例えば今いる場所を離れ、地元に帰って仕事をしたい人がいればそれも可能になり、場所や時間なども個人のライフスタイルや価値観にあわせて個人の意思を最大限に尊重することができるようになるのです。

地域の新たな可能性

地域の高齢化問題では、若者が地元地域で働く機会が得られないため、都市部に転出してしまうという大きな課題を抱えています。しかし、場所にとらわれずに働くことができるワークスタイルが今以上に普及すれば、都市部に住む必然性がなくなり、過疎の課題を抱える地域にとっては、新たな可能性が生まれると私は感じているのです。

動力の源泉

これまで5回にわたって、私の生まれ育った環境や経験、そして現在の取り組みなどについてお伝えをさせていただきました。

私が今から2年前、沖縄から地元である熊本に帰ると決めて準備を整えていた時、たまたま幼稚園から共に幼少期を過ごしてきた幼馴染に、街ですれ違いました。

その幼馴染は、ことある毎に私に幼い頃からの出来事や思い出をいつも楽しそうに話してくれました。小学生の頃、水泳で結果が出せず悔しい思いをしていた時や、大学を中退して自分に自信をなくしていた時も、いつも私の事を励まし続けてくれていた、かけがえのない友人です。

私は熊本に帰ったら、またいつでもその友人に会える。これから沢山、幼少期を過ごしてきた思い出を話せると思って、街ですれ違ったその時、あえて自分が熊本へ帰る予定であることを打ち明けませんでした。帰ってからいつでも話せると思っていたからです。しかし、その機会は訪れませんでした。

私が沖縄から熊本へ帰る2日前に、その友人は突然亡くなってしまったのです。

本当にショックでした。想像もしていなかった出来事です。私はそれまで、日々の生活は、これからもずっと先まで続いていくものだと考えていました。だから、やりたいと思うことがあったとしても、「将来」やろうと思って動かずにいたことがたくさんあったのです。

しかし、ある日突然、日々の生活が失われることがあるのだということを自分が人生の中で体験し、「今行動を起こさないと明日があるかはわからない」という想いが強くなったのです。

だからこそ私は今、長年いつか取り組みたいと考えていた地元、熊本県菊池市の地域活性化に向けた活動を積極的に推進し、多くの人が輝くことができる「働き方」や「組織づくり」の実現に向けても動き出しています。

一人一人の価値観を尊重し、強みを活かすことができる社会を実現するためにはどうすべきかを、私はこれからも追求していきたいと感じています。